ローリング・ストーンズとその創始者ブライアン・ジョーンズについての映画があります。特にインパクトのある作品というわけではないけれど、ながれる曲の選曲がいい。
ストーンズのメンバーのなかで、誰よりも美しく、才能にめぐまれているといわれていたブライアンが、英国の階級差別意識 (また人間の階級差別意識でもある) のなか建設業者に殺されるまでを描いた映画です。
この映画の主人公がブライアン・ジョーンズでないことは、何度かくりかえしてみているうちにわかってきます。ここでの主人公は建設業者フランク・ソログッドなのです。ちょうどフェリーニの「道」で、最初はジュリエッタ・マシーナを中心に展開されているように感じる悲しいストーリーが、実は相方の大道芸人の男について語られているのだとわかってくるような、そういう感じです。

STONED
Rolling
Stones

薬と酒でだめになったブライアンのところへ、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、チャーリー・ワッツの3人が「おまえをバンドからはずす」と告げにくるシーンがあります。つめたいこおりついたような表情のミックがドアをノックする。ブライアンはドアを開けるが外光のまぶしさに手で顔をかばう。それはなにか、このつらい通告をうけとめきれないブライアンのさいごの仕草に思えてなりません。3人を部屋に通すとき、ブライアンはしかしもう覚悟しているな、という悲しくてさびしい表情をしています。そしてミックとキースから、はっきりバンドからはずすといわれる。そのときのブライアンの表情が、たまらなく美しいものなのです。彼はそう言われても、怒りもしないし、泣きわめきもしない、ただ納得して、ただやさしく微笑むのです。
この微笑は敗北の顔にみえる。
それはやさしい、やさしい、あきらめきった表情だ。少しずつ崩壊してゆくプライドも、傷ついた心も、この微笑でくるみこんであたためようと、ブライアンはしていたのではないか。

3人が去るまで、ここではボブ・ディランの Ballad of A Thin Man がながれています。ブライアンは大量の薬を一気に吸い込み、幻覚に陥る。それは彼が最も輝いていた頃の思い出すべてです。
ただやさしく微笑んであきらめていった彼が、他のメンバーたちが去ってひとりになったとき、薬を吸いこむ衝動には、なにかとてもつらくて見ていられない、けれどもとてもわかるような気がします。
あのときブライアンをかばってくれるのは、きれいなガールフレンドでもソログッドでもなかったのでしょう。
ローリング・ストーンズのアルバム ベガーズ・バンケット のなかに、 ノー・エクスペクテーションズ という曲があります。あきらめの曲であり、人をかばってくれる曲です。ブライアンの美しいギターのフレーズが心に残ります(ブライアンの、ストーンズでの最後のプレイだといわれています)。

’93年、イギリスの新聞の大見出しをかざった第一報が、永らく謎とされていたブライアンの死についてのあらたな見解でした。フランク・ソログッドが死の床で、「おれがブライアンをやった。I did Brian.」と告白したというニュースです。
ストーンズが、そしてブライアンが、若者のカリスマであったころ、それをひややかにみていた年代の人々も、このニュースにショックをうけました。
ブライアンは亡くなるまえ、 くまのプーさん が書かれたという田舎家を買い、1969年、ここで亡くなりました。イギリスにはふつうにある田舎家です。

最先端と古びたものが共存する英国で、派手な服装に長髪で短い一生をかけぬけた一人の天才、それがブライアン・ジョーンズであったことを、みなずっとおぼえていたのでしょう。


NO EX
PECTATIONS

Take me to the station, and put me on a train
I’ve got no expectations, to pass,
through here, again

Once I was a rich men, and now I am so poor
But never in my sweet short life have
I felt like this before

Your heart is like a diamond,
you throw your pearls at swine
And as I watch you leaving me,
you pack my peace of mind.

Our love was like the water,
that splashes on a stone
Our love is like our music,
it’s here and then it’s gone

So take me to the airport, and put me on a plane
I’ve got no expectations, to pass,
through here, again

駅まで俺を連れて行き 汽車に乗せてくれ
もうここには
2度と来ないよ

かつて俺は金持ちだった いまは貧乏人さ
けれども生まれてから
こんな気持を味わったことはない

お前の心はダイヤのようだ
お前の真珠(愛) を豚 (俺) にくれた
お前が俺から離れるとき
俺の安らかな心まで持って行った

俺等の愛は
石に飛び散る水のよう
俺等の愛は
生まれては消える音楽のよう

だから空港まで俺を連れて行き 飛行機に乗せてくれ
もうここには
2度と来ないよ

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