裸のジャニス

1989年 米国の音楽雑誌、「ローリング・ストーン」誌で、それまで撮影されてきたロック・ミュージシャンたちの写真をあつめた、大きな本が出版された。
写真家はアニー・レボヴィッツはじめ、そうそうたるアーティストたち。
なかに一枚、モノクロームのジャニス・ジョプリンのヌード写真がある。写真家、Bob Seidemannの手による作品である。
ブルージーな激しいけれどぬくもりのあるヴォーカル、でもそれはしばしばいためつけられた心と肉体に浸みわたってくる、そんな60年代を代表するアーティスト、ジャニス・ジョプリン。

女性たちの圧倒的な支持に、傷つきながらもフェミニストの旗手として、平凡になれず、大スターにもちあげられ、苦しんだひとりの女性。
平凡な女は、旗手をもちあげる。自分で傷つくことはなく、自分にできないことをしている誰かを。でもいずれ記憶しなくなる。感情の激しいときを抜けたら。もうどうでもよくなって、なにも考えずに生き始める。それが本当の意味での「平凡な女」だ。そしてかつての旗手よりずっと、信じられないくらい強い。だから旗手であった女は、犠牲者となってしまうのだ。

ジャニスの人生を描いた映画 Little Girl Blue で、彼女の妹たちの、「姉はモデルになりたがっていた」というひと言はあまりにも悲しくはないか。
彼女は別の意味で、モデルよりはなやかなスターにはなれた。

でもきれいな洋服を着て、ランウェイをセクシーにあるくモデルにはなれなかった。「ローリング・ストーン」誌の写真のジャニスは、まるでうぶな女の子のような雰囲気で、なにかにおびえている。彼女のイメージとはなれることのない、じゃらじゃらのアクセサリーだけで、心もとなさそうにポーズしている。
そのおぼろげな視線の向こうには何もない。

彼女の愛した酒、サザン・コンフォートをかたむけながら・・・。


「ジャニス、ブルースに死す」デイヴィッド・ドルトン著
出版社:晶文社
発売日:1973年3月1日
訳者:田川律・板倉まり
ページ数:254ページ
ISBN-10:4794951744
ISBN-13:978-4794951748

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