セルジュ・ゲンズブールは、その音楽活動をジャズから始めました。
ジャズ時代の彼には、 La Fille au rasoir (1963 Gainsbourg Confidentiel)など、うちのめされるほど美しい曲がたくさんあります。

このころが、ゲンズブールが母国フランスで高い評価をうけ、名盤をいくつも発表し、フランス女優たちの歌うアルバムのプロデュースを手がけるなど、音楽的に最も充実していた時だったかも知れません。特にのちに妻となる、英国出身のジェーン・バーキンとデュエットした Je t’aime… moi non plus など、いまひとつ目立たなかった女優の魅力を引き出す、優秀なプロデューサーとしての側面でも有名です。殊に英語圏のジェーン・バーキンがフランス語を修得するのに、ゲンズブールはわざと彼女の英語なまりがチャーミングに聞こえるよう、アドヴァイスしたともいわれます。

名盤「イストワール・ドウ・メロディー・ネルソン」は、ジャズよりもロックの傾向がつよいアルバムに仕上がっていますが、しぶいダミ声のヴォーカル、女の子のはしゃぐ嬌声、ゲンズブールが生涯をつうじて愛飲していた、ジタンヌの匂いが感じられるような、ダウナーな気怠さ。

ジェーン・バーキンと別れたあとのゲンズブールは、次第にくずれていったとフランス人はよく批判する。
フランス語から英語の歌詞が多くなり、アルバム「ラヴ・オン・ザ・ビート」はかつての美しいジャズの旋律とはかなり変わった作品になっていますが、これはこれでこのくずれてゆく自分を嘲笑しているようなニヒリズムもあり、この方が好き、安心するというファンも多いのです。ただこのアルバムは、いまのところ、賛否両論に別れてしまう問題作でもあります。

Jane Birkin イタリアのミケランジェロ・アントニオーニ監督の映画作品、「欲望」などに出演。ヤードバーズの音楽がかっこいい映画でもある。またエルメスのバーキン・バッグでも有名
Gitanes フランスの煙草。フランス煙草は独特なものが多く、フランス人はアメリカ煙草の常飲者も結構いる。十年くらいまえまで、煙草に年齢制限がなかったため、通りを歩いていると、子供にねだられることもしばしばであったというお国柄

発表する音楽のみならず、ゴシップ記事にも登場する、そんなカリスマ、ゲンズブールが長年暮らしたパリの家の壁は、ファンによる落書きだらけです。パリで客死したドアーズのジム・モリソンの墓が、スピリチュアルな場所になっているのとおなじように。
ゲンズブールは、その存在として、フランス男の粋、哲学、美学を、変化する音楽活動のなかで、一本つらぬいたミュージシャンともいえるでしょう。 英語圏のロックは、英語のリズムとうまく融和しますが、このリズムの違うフランス語のロックは、実にロックになりにくい。けれども、ごくまれに、フランス語のロックが、英語のロックを超えてしまうときがある。セルジュ・ゲンズブールは、英語圏の国々でも、一目置かれる存在であり、否定されてきた作品も、いつか理解されるのかも知れません。

Disco
graphie

1958Du chant à la une !…
1959Serge Gainsbourg No2
1961L’Étonnant Serge Gainsbourg
1962Serge Gainsbourg No4
1963Gainsbourg Confidentiel La Fille au rasoir
1964Gainsbourg Percussions
1968Bonnie and Clyde
1968Initials B.B.
1969Jane Birkin – Serge Gainsbourg
1971Histoire de Melody Nelson
1973Vu de l’extérieur
1975Rock Around the Bunker
1976L’Homme à tête de chou
1979Aux armes et cætera
1981Mauvaises nouvelles des étoiles
1984Love on the Beat
1987You’re Under Arrest

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