薬と酒でだめになったブライアンのところへ、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、チャーリー・ワッツの3人が「おまえをバンドからはずす」と告げにくるシーンがあります。つめたいこおりついたような表情のミックがドアをノックする。ブライアンはドアを開けるが外光のまぶしさに手で顔をかばう。それはなにか、このつらい通告をうけとめきれないブライアンのさいごの仕草に思えてなりません。3人を部屋に通すとき、ブライアンはしかしもう覚悟しているな、という悲しくてさびしい表情をしています。そしてミックとキースから、はっきりバンドからはずすといわれる。そのときのブライアンの表情が、たまらなく美しいものなのです。彼はそう言われても、怒りもしないし、泣きわめきもしない、ただ納得して、ただやさしく微笑むのです。
この微笑は敗北の顔にみえる。
それはやさしい、やさしい、あきらめきった表情だ。少しずつ崩壊してゆくプライドも、傷ついた心も、この微笑でくるみこんであたためようと、ブライアンはしていたのではないか。
3人が去るまで、ここではボブ・ディランの Ballad of A Thin Man がながれています。ブライアンは大量の薬を一気に吸い込み、幻覚に陥る。それは彼が最も輝いていた頃の思い出すべてです。
ただやさしく微笑んであきらめていった彼が、他のメンバーたちが去ってひとりになったとき、薬を吸いこむ衝動には、なにかとてもつらくて見ていられない、けれどもとてもわかるような気がします。
あのときブライアンをかばってくれるのは、きれいなガールフレンドでもソログッドでもなかったのでしょう。
ローリング・ストーンズのアルバム ベガーズ・バンケット のなかに、 ノー・エクスペクテーションズ という曲があります。あきらめの曲であり、人をかばってくれる曲です。ブライアンの美しいギターのフレーズが心に残ります(ブライアンの、ストーンズでの最後のプレイだといわれています)。