The Other Side of Life Live at Altamont

「ギミー・シェルター」という映画がある。監督したのはメイセルズ兄弟、アメリカ、オルタモントでのライヴ映像である。
1969年、ウッドストックのコンサートの成功、そして幸せのフェスティバルとしての、このコンサートに対し、よりはやくフリーコンサートのフィルムを発表したかったローリング・ストーンズ側の意向により、計画性のない、観客がふりまわされる事態がおきた。1969年12月、60年代の華やかさは、別の顔をみせはじめようとしていた。

そうそうたるメンバーによる、フリーコンサート。行かずにはいられない顔ぶれだ。
フリーコンサートは急遽決められ、その場所もさまざまな情報が飛びかったため、観客は右往左往させられた。だけどこれだけのバンドがみれるのだ、是が非でもここへ到達したい。
ジェファーソン・エアプレインは日中にライヴをおこなった。
全盛期にあったこのバンドを、みにきていた人も多かったのだろう。
各種ドラッグ、酒、人間を奇妙にさせるもので、観客はやっとストレスから解放されて、このバンドの The Other Side of Life の生のライヴに酔いしれたのだろう。
ロックがまさに危険で良くないものとして存在しているこのとき、ジェファーソン・エアプレインのメンバーのアティチュードは立派だ。観客同士のなぐりあいを止めに入ったメンバーはたたきのめされ、それでもバンドは気分ひとつめげず、クールにライヴをやる。しかし騒動はおさまらず、女性ヴォーカル、グレース・スリックが、「Easy Calm」と呼びかけ、事態をおさまらせようとする。「愛してない人とはからだを離して」。このときの彼女の細い長い指がきれいだ。
そんな彼女もヘルズ・エンジェルスや観客のまえに、どならなければならなくなる。
ここに不思議なことが起きている。
ロックは不良だ。そうされてきた。不良であるからかっこいい。そうされてきた。けれども不良をみにきた一般人のほうが、暴れ、たたきのめしあい、ずっと不良どころか、暴徒ではないか。このフリーコンサートで、何かが逆転した。
そうだ、バンドは音楽をかなでられるだけ、こんなやつらとはちがっていたのだ。
Up and Down With the Rolling Stones「悪魔を憐れむ歌」トニー・サンチェス著  中江昌彦訳 全音楽譜出版社 1982年 からの文章を下記に引用する。

「ストーンズ・ジェネレーションの神話のベールがはぎ取られ、隠されていたまやかしの世界が暴露されたのは、まさにこの瞬間だった。彼らの主張してきたアナーキーな理想郷は、彼らの否定するまともな社会の保護の中だけでしか成立し得なかったのだ。オルタモントにはタカ派の議員も、実業家も、年寄りもいなかった。そう、まわりを見れば、血に飢えた生粋の殺人アナキストばかりだ。新聞、テレビのインタビューでさんざん俺たちを幻惑してくれたストーンズがあれほど誇りに思っていた、ほんとうに自由な世界とは、こんなものだったのか。今目の前に展開されているのは、醜く愚かで、無知で、たとえようもなく恐ろしい世界だ。(中略)
奴のヒップなイキがり言葉も、フラワー・パワーも、アクエリアスの夜明けもすべてはこの日に死んだ。(中略)
すべてはこの日を境に崩れ落ちていった。1969年カリフォルニア州オルタモント、60年代の美しい幻想の花は枯れ落ちた。」

ジェファーソン・エアプレインのライヴのあと、オオトリのストーンズが出演し、そこで殺人事件が起きてしまう。この事件にも、70年に入る前夜の複雑なアメリカの様相がみえてくる。
ストーンズのライヴの途中で、興奮した客から、「Preachers!(伝道師)」というこのうえなくイヤ味なことばが飛ぶ。しかしその後、「Preachers」に変化せず、長い時間を生き抜いてきたストーンズもすごい。
ジェファーソン・エアプレインはその後、「ジェファーソン・スターシップ」そして「スターシップ」とバンド名を変え、80年代には We Built This City を大ヒットさせる。多くのメンバーチェンジもあったようだが、80年代、この大ヒット曲を好きになった方も、ぜひオルタモントの The Other Side of Life のライヴをみてほしいと思う。

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